27、洞窟








 この里には、犬夜叉の匂い。大量の妖怪と人間の血。そして微かだが奈落の匂いだ。ここで何があったかは容易に想像できる。妖怪にこの里を襲わせ、奈落が何かをしたのだろう。そして、その後犬夜叉達が訪れた。
 犬夜叉はこの村で何をしたのだろうか。
 犬夜叉の匂いを追って行けば、洞窟にたどり着いた。入ってみれば、妖怪の死骸ばかりだ。だが妖気は放っていない。もっと奥に入っていけば、邪見が感嘆の声を上げた。
「おお、これは……!って、なんでしょう、これ?」
 大量の妖怪と人間の女……。そして、男。の死骸。
 妖怪に体を乗っ取られた男。そんな妖怪に体を食らわれた女の胸には穴がある。この女は巫女だ。巫女は妖怪に食われ、心の臓も食われたのか。いや、この巫女は自ら心の臓を外に出したのだ。
 だが、なんのために。そして、犬夜叉達はここで何をしたのか。
「ん?……殺生丸様如何なさいましたか?」
 興味を無くしたのだろうか、死骸に背を向けて歩き出す殺生丸に邪見が小走りについて行く。相変わらず殺生丸は何も話さない。よし、聞いてみよう。と、先程まで気になっていたことを聞くために唾をごくりと飲み込んだ。
「あの〜、殺生丸様。……は……?」
「……」
「殺生丸様……を置いて行かれるんでしょうか?いや、人間嫌いの殺生丸様が人間の女を連れておられる方が、変なわけで……」
 何も言わない殺生丸を横目で見れば、相変わらずの無表情だ。が、怒っている。長年仕えてきて雰囲気で殺生丸の機嫌がわかる。これは、怒っているのだ。
「で、ですぎたことを申し上げて、すみません!!」
「……」
「え?あ、あの殺生丸様どちらに!?」
 洞窟を出ると、土下座をする邪見を置いて殺生丸は浮かび上がった。後ろから邪見の声が聞こえる。
 ……。あんな顔を初めて見た。自分の言葉一つではいろんな顔をする。だが、先程の顔は初めてだ。あの顔は人が傷ついた時にする顔なのか。
 ただ、腹が立った。
 は殺生丸の左腕がないことを初めて知った。という顔をし、謝った。何故だかそれに腹が立った。あの滝で、は殺生丸を手当てしたのだ。
『大丈夫……。また、走れるようになるわ』
 そう言って笑ったのは確かにだった。そして、あろうことに殺生丸の耳を撫でたのもだ。あの笑みをは知らない。自分だけが知っている。
 は過去を知らない。改めて実感した。
 なら、の過去を消したのは誰だ。
 いつの間にか、のことばかりを考えている自分がいる。それが、また不愉快だ。が側にいると不愉快なことが多い。だが、離れようという考えはまったく出てこない。
(……不愉快だ……)
 目的の場所にたどり着くと、殺生丸は静かに降りた。






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20100927