26、退治屋の里にて








「ここは……」
 山中を歩き回り、たどり着いたのは砦が立派な大きな村だった。ただ、おかしいのが人の気配がしないのだ。砦の門は開けられているが……。
「……殺生丸様、ここはいったい……?」
「退治屋の里だ」
 そう言うと殺生丸は里の中へ入っていく。その背中を追って門をくぐる。不思議な空気だ。人が誰もいないのだ。片付けられてはいるが、壊れた家などがあちらこちらにある。何かに襲撃されたのだろうか。人がいない村は悲しげに見えた。
「……ここが退治屋の里か……。退治屋の里って何?」
 邪見に聞けば、
「知ってるふりか、聞きたいのかどっちじゃッ!?……まぁ、退治屋の里は、妖怪を退治する村のことじゃ」
 と、偉そうに説明する。妖怪を退治して生活していたということだろうか。と、いうことは襲撃してきたのは、妖怪なのか。
 そんなことを考えながら、殺生丸の隣に立てば、
「……犬夜叉の匂いがする……」
 と、彼は言った。
 彼等もここに来たのだ。一体なんのために?
 村をもう一度見渡せば、端の方に山積みにされた土を見つけた。
 墓だ。
 何人もの墓が並べられている。村の者達の墓だろう。墓には燃え尽きた線香の跡と枯れてしまった花が供えられていた。この墓を作ったのは犬夜叉達だ。と直感した。彼等は墓を造り、そして去っていったのだろう。枯れた花を見ているとなんだか虚しさがこみ上げてくる。
 その場から立ち去ろうとする殺生丸を追いかけて、左腕を掴もうとする。
「……え?」
 思わず声が出る。
 掴んだ手には腕はなく、着物だけを掴んでいた。
 今更になって気がついた。殺生丸には左腕がないのだ。睨み付けるようにを見つめる殺生丸から一歩さがる。
「ご、……ごめんなさい……」
 謝るに殺生丸は何も言わなかった。だが、背を向けて歩いていく。
「……あ、待って!私、花を摘みたいんだけれども……!」
 枯れてしまった花じゃなく新しい花を墓に供えたかった。
「……」
 何も答えない殺生丸を追いかける。今度は右手を掴もうとした瞬間、

「……触るな」

「……ッ」
 殺生丸のあまりの言葉に時間が止まる。
 初めて、拒絶されたのだ。
 銀髪の髪が揺れ、から離れていく。困った顔をした邪見は殺生丸について行ってしまった。

 初めて、一人になった。





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20100722