25、邪見と二人で それにしても昨晩は驚いた。と、邪見は深いため息を吐いた。昨晩、寝ぼけて殺生丸を叩いたを思い出したのだ。 殺生丸が連れてきた人間の女、と歩くこと数日。殺生丸が女を連れてきたことにも驚いたが、まさかそれが人間の女だというのが、さらに驚いた。 。という名は、前に奈落が殺生丸に言ってはいたが、殺生丸とどういう関係かは未だに分からない。 「……。邪見」 ぐちぐちと考えていれば、前を歩く殺生丸が二人を呼んだ。 「ここにいろ……」 そう一言言い残すと殺生丸は浮かび上がると空を飛んで、どこかに行ってしまった。 「待って下さい!殺生丸様!」 空に舞い上がった殺生丸は、邪見の言葉に振り向きもしなかった。 残ったのは、と邪見の二人っきり。正直、は嫌いだ。長年殺生丸に仕えっている邪見よりも優遇されているし。今までなら、どこに行くのも一緒だったのに、最近では殺生丸に用事があるというのに、お供もさせてもらえない。逆にと一緒に留守番だ。なぜ、自分が人間の女の護衛で留守番なのか。これは、殺生丸に断固抗議したい。が、怖いからそんなことは言えない。 (はぁー……。なんで、殺生丸様はこんな女を連れて歩いてるんだ……) 殺生丸の考えは邪見を飛び越した考えになってしまう。つまり、わからないのだ。ため息をつき。後ろを振り返ってみれば、木の下では空を眺めていた。 「ねぇ……。邪見」 呼び捨てにされて、むっとしてしまうが、呼ばれたからには返事をしなければならない。無愛想に返せば、空を見つめていたが邪見を見た。 「殺生丸は……」 「様、をつけろ。……殺生丸様と呼べ。バカ者が」 邪見も座り、小うるさく言う。 「殺生丸様は……、なんで歩き回ってるの……?」 「……なんにも知らずに、一緒にいたんかいッ!?」 あまりのの台詞に大きな声で叫んでしまった。あまりにも大きな声だったせいか、木にとまっていた鳥たちが羽ね音を鳴らして、飛んでいった。 叫んだ後、邪見は数秒固まってしまった。この女、殺生丸と一緒にいる価値がないんじゃないかと思ってしまう。 そんな邪見をよそ目には再び空を見上げた。 「私ね。過去の記憶がないの……」 寂しげな顔をして、が言う。 「記憶はないけど、殺生丸とは一度会ったことがあって……。殺生丸の名前だけは覚えていたの。だから……」 だから、の過去を知っている殺生丸と一緒にいる。殺生丸と一緒にいれば、の過去を知ることが出来ると思っていた。けれども、殺生丸は過去の話をしてくれない。このまま、一緒にいていいのだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。 「ふん。貴様の過去などどうでもいいわい」 木の根に座り邪見が言う。 「殺生丸様に甘えてるんじゃない」 甘え。 確かに、甘えているのかもしれない。そもそも、殺生丸から過去を教えてもらう。と言うのが間違えていたのかもしれない。 「それに、今殺生丸様にはやるべきことがあるんじゃ」 「やるべき、こと……?」 鼻を鳴らすと邪見は偉そうに 「父上の刀、鉄砕牙を我が手にすることじゃッ!!」 偉そうに言う邪見は、まるで自分のことのように悔しげに言う。 「本来、鉄砕牙は殺生丸様が持つにふさわしいお方。それが、犬夜叉の奴めッ……!」 「え……?犬夜叉って……」 知っている人物の名前が出てきて驚いた。 「犬夜叉は……、まぁ、言いたくはないが……。殺生丸様の異母弟じゃ」 「……」 口を尖らせてそっぽを向いた犬夜叉を思い出す。あの犬夜叉と殺生丸が異母兄弟だとは。世間は案外狭いな。っと、思ってします。けれども、確かに銀髪は一緒だが……。 「……地は似ているような……」 「はぁ?」 「ううん。なんでもない」 を馬鹿にしたような顔で見る邪見に首を振る。 ここで、犬夜叉とは一度あったことがある。と言えば、邪見の説教が何時間も繰り返されそうだ。適当に交わして、再び空を見上げる。犬夜叉達のことは心に留めておこう。そう決めた。 澄んでいる。小さな鳥が空を飛んでいる。 犬夜叉と殺生丸。確かにこの二人は全然違う人種……。 (ん?……妖怪だから人種はおかしいか。妖種。なんか変だ) ようするに根本的な要素が似ている。と、言うことだ。意地っ張りで、頑固で負けず嫌い。 「それに、優しいしね」 「……誰がじゃ」 「ん?殺生丸が、優しい。って話し」 の言葉に絶句する邪見。 「や、優しくないわッ!わしは数百年お供をしておるが、殺生丸様が優しかったってことはなかったわッ!!どんだけ、わしが苦労してきたと思っているんじゃ!!ガッハ!!」 その言葉を最後に蛙が踏みつけられた時のような声を邪見は上げた。 「殺生丸。おかえりなさい」 ちょうどいい時に帰ってきた殺生丸の足の下には潰れている邪見がいる。邪見は運がないのよね。と、思っていれば殺生丸がふんわりとした布をに被せた。被衣(かずき)だ。 「これ……私に?」 「……」 聞いても、何も言わない。そう言えば、突然村を出たから旅の準備などしていなかったことを邪見に話したことがある。邪見には、相手をされなかったが殺生丸は聞いていたのだ。嬉しい。 「殺生丸。……ありがとう」 彼の思いがけない贈り物に胸が弾む。思わず、笑ってしまう。 「……行くぞ」 殺生丸が歩き出す。それを追っても歩き出した。 その場に潰れた邪見はポツリと言った。 「ほら……優しくない……」 潰され土まみれになった邪見は自力で立ち上がると、先に行った二人を追いかけていった。 20100704 |