23、口角を上げる者 「そうか……。が生きていたか……」 最猛勝が持ち帰った情報に、奈落は口角を上げた。 犬夜叉達の動向を知るために最猛勝を向かわせ、大蜘蛛をけしかけた。が、結局犬夜叉の達の命は取れず、村を壊すことしかできなかった。けれども、幸運なことにが村にいた。生きていたのだ、あの女は。川に飛び込み生死が分からなかった、あの女。何かの結界に守られていたこの村は、この奈落の視野に入ってはいなかった。高い霊力を持つ誰かが、この村に結界を施していたのだ。だからの生死がわからなかったのだ。だが、その誰かがいなくなったおかげで、村の結界は破れを見つけた。 さらに殺生丸が現れた。大蜘蛛に襲われていたを殺生丸が助けたのだ。 これは、面白いことになった。 最猛勝の情報によれば、は殺生丸と共に村を出た。ということだ。 は奈落の暗示により記憶がない。自分の最愛の人が殺され、自らも命を狙われたことも、誰に裏切られ、悲しみ絶望したか。誰に復讐をすればいいのか……。すべては忘れているのだ。 は殺生丸に惹かれていく……。 それが人間の心なのだ。 一緒にいればいるほど思いは募っていくだろう。 初めて、殺生丸と出会った時に感じた胸の痛さ。それが再びの心を支配する。 その想いが溢れ出るようになったら。 暗示を解いて、過去を思い出させてやろう。 過去を思い出し、心を思い出し、殺生丸を見るは一体どうなるだろうか。どんな壊れ方をするだろう。 考えただけでも面白い。 そうすれば四魂のかけらは、どんな色になるだろうか。 今少し、自由にさせておこう……。 「べくしゅん!」 くしゃみをしたに邪見が横目でチラリと見た。 「貴様……変なくしゃみじゃな〜」 「ん〜、誰か私の噂をしているのかも……」 適当な返事をすれば、 「へっ!誰が貴様などの噂をするか」 と、返される。 「あー、旅仕度しないできちゃったから、羽織物でも欲しいな」 「ふん。我が儘な女め」 邪見との掛け合いに耳を傾けることもなく、殺生丸は上を見上げた。 最猛勝だ。 奈落の毒虫だ。何かを監視しているのだろう。殺生丸の視線に気がついくと、すぐに夕方の空へと消えていった。 20100526 |