20、お茶








「おい」
 湯が沸き、茶葉をいれようとしていた時だ。振り返ってみれば、犬夜叉が睨み付けるようにを見ていた。
 彼は半妖だと、先程かごめが説明してくれた。半分が人間で、半分が妖怪だという。だから、銀髪に犬耳なのね。っとの気持ちは高揚感が溢れ出た。
 人間と妖怪。二人は本当に愛し合って、子供を産んだ。あまりにも素敵な話だ、と思った。色々と辛いこともあっただろう。だが、その人を愛したことをけっして後悔をしていない。犬夜叉の瞳には、うっすらと光が差しているような気がした。犬夜叉の母は犬夜叉を愛していたのだ。彼の瞳にはそう書いてある。っと、は自分勝手にそう考えてしまい、一人笑う。
 そう言えば……。考えていれば、何か引っかかった。村を出て行くときに桔梗が言っていた話。桔梗は確か、半妖……。と言っていなかったか。
「関係あるのかな……」
 考えてしまったに犬夜叉が不機嫌そうに返した。
「……なんだよ?」
「ううん。なんでもない。……気にしてくれて、ありがとう。犬夜叉さん」
 犬夜叉の目を見て、そう言えば、彼は視線を外した。
「さん。なんて付けるな。犬夜叉でいい」
 ぶっきらぼうに言う彼に思わず笑みが零れてしまう。
「はいはい。犬夜叉ね」
 の言葉に、へっと鼻を鳴らすと、犬夜叉はその場にどかりと座った。
「……ここに……」
 言葉を躊躇う彼に首をかしげる。
「ここに、桔梗がいただろう」
「……桔梗?」
 なぜ彼が桔梗の名前を知っているんだろう。
「巫女の桔梗ならいたわよ。この寺に。……何で分かったの?」
 そう、聞くに、
「俺は、鼻がきくんだよ!」
 と答えた。
 ああ、半分は犬妖怪の血があるからか。耳もあるし。爪も長い。それに、鼻もきく。なんだか、可愛らしく思えてくる。
「けれども……、桔梗はもういないわ。去っていったの」
 星々が輝く夜に去っていった桔梗が脳裏に浮かぶ。
「……そうか……」
 小さく寂しそうに犬夜叉が呟いた。その呟きが桔梗は犬夜叉にとって大切な人であることを物語っている。
「犬夜叉は……、桔梗とどういう関係なの?」
「……」
 犬夜叉は答える気はないらしく。そっぽを向いてしまった。
 犬夜叉と桔梗。なにかあるらしいな。っと、女の感が働いた。けれども、桔梗は死人のはず。なぜ桔梗が死人になったのかは知らないが、死人の桔梗と犬夜叉がどういう関係なのか。少し気になる。
「……ん?」
 頭の中で何かが引っかかる。
「どうした?」
 首を傾げるに犬夜叉が聞く。
「そう言えば……、かごめちゃんって桔梗に似てるなって思って……」
 の言葉に犬夜叉の耳がピクリと動いた。
「……おまえこそ……、桔梗の何を知ってるんだよ」
 怖い顔で犬夜叉が低い声で言う。
 桔梗が一体何者なのか。は何も知らない。桔梗が死人であること知っている以外は。犬夜叉と桔梗。桔梗とかごめ。絡み合っている何かをは知らない。
 けれども……、
「桔梗が何者で、一体なんなのか。私は知らない……。でも、知っていることもたくさんあるのよ。桔梗が子供が大好きなこと。薬草や傷の手当てができること。大人っぽくて、優しくて、少し、気が強いこと。……実は、悲しい秘密があること」
 そう。短い間だったが、は桔梗と共に過ごし、彼女を知った。きっと犬夜叉も桔梗を大切に思っている。
「……けっ!」
 先程までの雰囲気がガラリと変わり、不良少年のように犬夜叉が言う。
「かごめは……桔梗の生まれ変わりだ」
「……生まれ変わり……?」
「そうだよ!聞きてぇことは、それだけか」
 生まれ変わり……。桔梗は死人だ。一度死んだ桔梗の魂は、かごめとして生まれ変わったと言うことなのだろう。信じがたい話だが、本当の話なのだろう。
 自分は知らないことが多いな。っと、ため息が出る。は自分の過去も知らないのだ。こんな自分が桔梗の過去に触れてはいけないような気がした。
「……はい、どうぞ」
「なんでぇい、これ」
「お茶」
 話をしていたので、少しぬるくなってしまったが、犬夜叉の前にお茶を置く。なぜか犬夜叉に一息ついて欲しかった。
「茶なんて、いらねぇ」
 そういう彼に、
「犬夜叉。……一息つくのは大切よ。せっかくお茶を入れたんだから、飲んで」
 と、言えば。一瞬の顔を見つめる。、そして勢いよくお茶を飲んだ。
「ほら、飲んでやったぞ!」
「えらい。えらい」
 犬に褒めるように、犬夜叉の頭を撫でる。こんなことをしたら、短気な彼は怒るだろう。っと思ったが、なぜか犬夜叉は大人しく撫でられている。けど、我に返ったのか、頭を撫でるの手を取る。にこにこと笑うの瞳を覗き込むようにして、犬夜叉が見つめる。何かを思い出すように。
「……なんで、そんな目で見るの?」
 の言葉に我を思い出す。
「う、うるせいな!なんでもない」
「そうかな……。もしかして、私も。犬夜叉の知っている人の生まれ変わりだったりして?」
 冗談で言えば、
「……もう一度……。名前を呼べ」
 ああ、彼は正直な人なのだ。
「……犬夜叉……」
 心の底で愛おしく思う気持ちが溢れてくる。
「かごめちゃんのこと好きでしょ」
「ッ……やっぱり、全然似てねぇ!!」
 笑いながら思う。彼は素直じゃないのだ。





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20100506