19、生まれ変わり? 「犬夜叉。あんたどうしたの?機嫌が悪いわよ」 箸を休めて、かごめは部屋の隅に座る犬夜叉に声をかけた。 と僧の好意に甘えて寺の一室と食事を頂いた。正直、とても嬉しかった。最近は野宿が多く、女性であるかごめは少しうんざりしていたのだ。屋根があるところで寝れて、食事もある。今晩はゆっくりと寝れる。っと、思っていたが犬夜叉の様子が少し変なのだ。 「今日、あんた変よ」 「うるせーな」 かごめの言葉に立ち上がると犬夜叉はすたすたと部屋を出て行ってしまった。 「なんか……犬夜叉、変ね」 「かごめ、気にするな。犬夜叉が変なのはいつものことじゃ」 頬に米を付けて七宝が大人びたことを言う。 確かに、犬夜叉が機嫌を悪くして怒るのはいつものことだけれども。今日のはなんか物思いにふけっている。 「そうですね……。様が関係しているのかもしれませんね」 「さんが?」 とは先程まで楽しく話していたが、お茶を入れると言い席を立っている。犬夜叉はを追いかけたのかもしれない。だが、なぜだろう。そう言えば、犬夜叉はを睨み付けていたような気がする。……。そう言えば。 「もしかして……」 「なんじゃ?」 の顔をもう一度思い出してみる。 「さん……、犬夜叉のお母さんに似てるんだわ」 「母君に?」 弥勒の言葉に、うんと頷く。 以前、殺生丸が犬夜叉の父の墓のことでやってきた時だ。無女という妖怪が犬夜叉の母になりすましていた。犬夜叉の母の生前の顔は分からないが、無女が化けていた母の顔はの面影がある。の優しげな顔。犬夜叉の母親の優しげな顔。似ている。もしかしたら犬夜叉自身もそう思ったのかもしれない。 生まれ変わり。 そんな言葉を思いだす。かごめ自身も桔梗の生まれ変わりだと言われている。自身では、そう思わないが……。もそうなのかもしれない。 けれども、無女の一件で犬夜叉は信じ切れないのかもしれない。 一度、無女を母だと信じ、裏切られた。今回も何かの罠かもしれない。 だが、は普通の人間だ。彼女の言動は悪意も嘘もない。ただの人間だ。犬夜叉の鼻も妖怪の匂いを嗅いでいない。 楽しげに、くすくすと笑うを思い出す。 「……犬夜叉の母君は、犬夜叉が幼い頃に亡くなっているんですよね……」 弥勒がぽつりと言う。 「生まれ変わり……は、十分にあり得る話かもしれませんね」 輪廻転生を信じる時代。仏の教えがもし、本当にそうならば……。 生まれ変わりが、本当であってほしい。 無女の時のように、まやかしでないでほしい。あのことで犬夜叉はとても傷ついただろう。なんだかんだ言いながら、犬夜叉は母を慕っているのだ。こまめに小さな墓に花を置く犬夜叉を想像すると心が痛む。 「……犬夜叉……」 かごめの心に反応するように、四魂のかけらが小さく震えた。 20100429 |